静岡地方裁判所富士支部 平成6年(ワ)219号 判決 1996年6月11日
原告
A
右法定代理人親権者父兼原告
B
右法定代理人親権者母
C
原告
D
右法定代理人親権者父兼原告
E
右法定代理人親権者母
F
原告
G
右法定代理人親権者父兼原告
W
右法定代理人親権者母
H
原告
K
右法定代理人親権者父兼原告
L
右法定代理人親権者母
M
原告
N
右法定代理人親権者父兼原告
O
右法定代理人親権者母
P
原告
R
右法定代理人親権者父兼原告
S
右法定代理人親権者母
T
原告ら訴訟代理人弁護士
藤森克美
被告
乙山一郎
主文
一(一) 被告は、原告Bに対し、金七八万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
(二) 被告は、原告Aに対し、金二九万八五〇〇円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
二(一) 被告は、原告Eに対し、金九五万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
(二) 被告は、原告Dに対し、金三一万五五〇〇円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
三(一) 被告は、原告Wに対し、金六九万円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
(二) 被告は、原告Gに対し、金二八万九〇〇〇円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
四(一) 被告は、原告Lに対し、金八五万円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
(二) 被告は、原告Kに対し、金三〇万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年六月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
五(一) 被告は、原告Oに対し、金一二四万円及びこれに対する平成五年一〇月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
(二) 被告は、原告Nに対し、金三四万四〇〇〇円及びこれに対する平成五年一〇月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
六(一) 被告は、原告Sに対し、金一一〇万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年一〇月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
(二) 被告は、原告Rに対し、金三三万〇五〇〇円及びこれに対する平成五年一〇月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
七 訴訟費用は被告の負担とする。
八 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
主文と同旨
第二 事案の概要
一 本件は、被告の経営する進学塾の生徒及びその父である原告らが、右進学塾の授業内容が事前に被告から説明を受けていたものとかけ離れているとして、被告に対し、債務不履行ないし不法行為に基づき受講料等相当額の損害賠償及び慰謝料等の請求をしている事案である。
二 争いのない事実(もしくは証拠上明白な客観的事実)
1 被告は、本件当時○○研究所(以下「○○」という。)と称する進学塾を経営していた者である。
原告A、原告D、原告G、原告K、原告N及び原告R(以下「原告生徒ら」という。)は、いずれも本件当時中学生であり、○○に通塾していた。
原告B、原告E、原告W、原告L、原告O及び原告S(以下「原告親ら」という。)は、原告生徒らの父親である。
2 原告A及び原告Bについて
(一) 原告Bは、平成四年九月八日、被告との間で同原告の子であり当時中学一年生であった原告Aを○○に五〇回通塾させる契約を締結した。
(二) 原告Aは、右契約に基づき週一回○○に通い始めたが、右契約途中である平成五年三月ころ、○○への通塾を中止した。
(三) 原告Bが、前記契約に基づき被告に支払った受講料等は以下のとおりである。
① 五〇回分の受講料として七〇万円
② 参考書代として三万円
③ 平成四年の冬期講習会費用として五万五〇〇〇円
(以上合計七八万五〇〇〇円)
(四) 平成五年六月二七日、原告Bは、被告に対し、右金員の支払いを催告した。
3 原告D及び原告Eについて
(一) 原告Eは、平成四年九月ころ、被告との間で同原告の子であり当時中学一年生であった原告Dを○○に五〇回通塾させる契約を締結した。
(二) 原告Dは、右契約に基づき週一回○○に通い始めたが、右契約途中である平成五年三月ころ、○○への通塾を中止した。
(三) 原告Eが、前記契約に基づき被告に支払った受講料等は以下のとおりである。
① 五〇回分の受講料として七五万円
② コンサルタント料金として七万円
③ 参考書代として二万五〇〇〇円
④ 平成四年の冬期講習会費用として五万五〇〇〇円
⑤ 平成五年の春期講習会費用として五万五〇〇〇円
(以上合計九五万五〇〇〇円)
(四) 平成五年六月二七日、原告Eは、被告に対し、右金員の支払を催告した。
4 原告G及び原告Wについて
(一) 原告Wは、平成五年一月ころ、被告との間で同原告の子であり当時中学一年生であった原告Gを○○に四三回通塾させる契約を締結した。
(二) 原告Gは、右契約に基づき週一回○○に通い始めたが、右契約途中である平成五年五月ころ、○○への通塾を中止した。
(三) 原告Wが、前記契約に基づき被告に支払った受講料等は以下のとおりである。
① 四三回分の受講料として六七万円
② 参考書代として二万円
(以上合計六九万円)
(四) 平成五年六月二七日、原告Wは、被告に対し、右金員の支払を催告した。
5 原告K及び原告Lについて
(一) 原告Lは、平成四年九月ころ、被告との間で同原告の子であり当時中学一年生であった原告Kを○○に五〇回通塾させる契約を締結した。
(二) 原告Kは、右契約に基づき週一回○○に通い始めたが、右契約途中である平成五年二月ころ、○○への通塾を中止した。
(三) 原告Lが、前記契約に基づき被告に支払った受講料等は以下のとおりである。
① 五〇回分の受講料として八二万円
② 参考書代として三万円
(以上合計八五万円)
(四) 平成五年六月二七日、原告Lは、被告に対し、右金員の支払いを催告した。
6 原告N及び原告Oについて
(一) 原告Oは、平成四年五月ころ、被告との間で同原告の子であり当時中学二年生であった原告Nを○○に六〇回通塾させる契約を締結した。
(二) 原告Nは、右契約に基づき週一回○○に通い始めたが、右契約途中である平成五年六月ころ、○○への通塾を中止した。
(三) 原告Oが、前記契約に基づき被告に支払った受講料等は以下のとおりである。
① 六〇回分の受講料として九〇万円
② コンサルタント料金として七万円
③ 参考書代として二万円
④ 平成四年夏期講習費用として一五万円
⑥ 定期試験対策講習費用(二回分)として合計一五万円
(以上合計一二九万円)
(四) 被告は、平成五年一〇月二九日、原告Oに右受講料のうち五万円を返還した。
(五) 平成五年一〇月二九日、原告Oは、被告に対し、(三)の合計金額から(四)の金額を控除した金員(一二四万円)の支払いを催告した。
7 原告R及び原告Sについて
(一) 原告Sは、平成四年三月ころ、被告との間で同原告の子であり当時中学一年生であった原告Rを○○に七〇回通塾させる契約を締結した。
(二) 原告Rは、右契約に基づき週一回○○に通い始めたが、右契約途中である平成五年六月ころ、○○への通塾を中止した。
(三) 原告Sが、前記契約に基づき被告に支払った受講料等は以下のとおりである。
① 七〇回分の受講料として九〇万円
② コンサルタント料金として七万円
③ 参考書代として三万五〇〇〇円
④ 平成四年夏期講習費用として一五万円
(以上合計一一五万五〇〇〇円)
(四) 被告は、平成五年一〇月二九日、原告Sに右受講料のうち五万円を返還した。
(五) 平成五年一〇月二九日、原告Sは、被告に対し、(三)の合計金額から(四)の金額を控除した金員(一一〇万五〇〇〇円)の支払いを催告した。
三 原告の主張<省略>
四 被告の主張<省略>
第三 当裁判所の判断
一 本件契約の内容について
1 被告が原告親らとの間で、原告生徒らを○○に通塾させる契約(以下「本件契約」という。)を締結したことは当事者間に争いがない。
更に、本件契約の内容として被告が原告親らに対し以下のとおりの説明をしたことも当事者間に争いがない。
① 二ないし三人又は三ないし四人を単位とするマンツーマン方式による指導をする。
② 子供の能力に合わせた特別のテキストを用いて指導をする。
③ 勉強の仕方、考え方、取り組み方を指導し、何をやってよいか分からない子供に意欲を持たせる。
④ 自分なりのノートの作り方を教える。
⑤ 定期試験で八〇点以上取れるよう指導する。
⑥ 英語、数学を重点に五教科を指導する。
⑦ 受験を目指した教育をする。
⑧ 先生と生徒、先生と親との信頼関係を作る。
2 右契約内容は曖昧かつ抽象的であり、本件契約に基づき被告が原告らに対して負う法的義務を特定するには十分ではない。
しかしながら、本件契約に基づく一時間あたりの受講料(コンサルタント料も含む。)が、本件契約当時の富士市内の一般的な進学塾における一時間あたりの受講料が約一五六二円である(甲二〇号証及び原告Bの供述)のに対し、原告Bの場合四六六六円、原告Eの場合四五五五円、原告Wの場合五一九三円、原告Lの場合四九六九円、原告Oの場合五三八八円、原告Sの場合四六一九円であり、右受講料は、前記一般的な進学塾の受講料の三倍を越える極めて高額の受講料であって、前記各契約内容と右受講料の水準とを併せ考慮すると、原告らは、被告に対し、多数の生徒を一クラスとして指導する通常の進学塾においては期待できない、生徒個々人の能力や個性に応じたきめ細かい指導を求めていたこと及び被告も右のような指導をすることを約して本件契約を締結したことが明らかである。
3 従って、本件契約に基づく被告の義務として最も重要な点は、生徒個々人の能力や個性に応じたきめ細かい指導をするということであり(前記のような被告の説明した契約内容もこのような観点から理解すべきものである。)、本件契約に基づく高額の受講料は、右のような指導の対価として被告に支払われたものというべきである。
二 指導内容について
1 甲九ないし一三号証、二〇ないし二五号証、原告兼原告A法定代理人親権者B、原告D法定代理人親権者F、原告G法定代理人親権者H、原告K法定代理人親権者M、原告N法定代理人親権者P及び原告R法定代理人親権者Tの各供述並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告生徒らが通った○○の授業形態は、最初の数回は別として、それ以降は少人数によるマンツーマンの指導ではなく、被告は、本件当時○○における講師が被告ひとりであったのに、○○における受講者数を生徒個々人の個性や能力に応じたきめ細かい指導が可能な人数に限定していなかった。
特に、受験前になると、中学三年生の生徒が原告らが通塾する時間帯にも来たため、一教室に一〇人近くの生徒が授業を受ける状態となった。その場合、被告は、進学塾としての指導実績に直ちに反映する中学三年生の指導に重点を置き、原告生徒らは放置されていた。
(二) 被告は、原告生徒らに自習をさせることが多く、しかも、独自のカリキュラムやテキストによる自習の指示もなかったため、原告生徒らは、学校で使用している教科書を使って自習をしていた。また、自習をしない場合であっても、被告の指導方法は、例えば、二七回通塾した原告Dの場合、英語については教科書を読ませるだけで文法の指導をしない、数学については原告生徒らの能力を無視した問題を解かせてその解説はしない、国語については何もしない、理科、社会は自習するだけというものであった。
そのため、原告生徒らは、○○に行っても学校から出された宿題をするだけで終わることも多い状態であって、ノートの取り方や学習の仕方・ポイント等の指導を受けていなかった。例えば、原告Kの場合、被告が指導してくれないため、やむなく自分で工夫した自主勉強ノートを作っていたところ、被告から「こんなノートの作り方はだめだ。」と言われたが、具体的にどのようにノートを作ったらよいのかについては指導されなかった。
(三) 被告は、原告生徒らから質問を受けても、原告生徒の疑問点を的確に把握することも、その能力に応じた指導をすることもなかった。例えば、原告Gの場合、方程式の解き方を質問したのに対して方程式の語源等は説明するものの質問そのものに対する回答を示さなかった。
(四) 被告は、原告親らに対し、○○における指導で使用する参考書が東京・静岡地区でしか入手できない特殊なものであると説明して、それぞれ二万円ないし三万五〇〇〇円もの金をその代金として受領していたが、原告生徒らが○○に通っている間に、右参考書の交付を受けたのは原告A(代金として三万円を支払っている。)のみであり、しかも、その参考書は、
「中2 力がつく理科」教学研究社定価九八〇円
「中2 力がつく数学」教学研究社定価九八〇円
「中学 力がつく歴史」教学研究社定価九八〇円
「中学 力がつく地理」教学研究社定価九八〇円
「楽しい英文法」 三友出版社 定価一〇一〇円
であり、定価合計四九三〇円の、かつ、どこの書店でも容易に入手できる参考書に過ぎないものであった。
(なお、被告は、原告N及び原告Rに対して、同原告らが○○に通塾するのを中止し、その親から抗議がなされた時点で、定価合計四八〇〇円の参考書数冊を交付した。当然のことながら、○○における授業では全く使用されていない。)
そして、被告は原告Aに交付した右参考書のうち、「楽しい英文法」は一回使用したが、他の参考書は全く使用していない。
(五) 被告は、授業時間中、自らの机で、趣味の車関係の書籍を読んでいることが多く、また、居眠りをすることもあった。
更に、被告は、授業時間中に長電話をかけたり、車関係の人と話をしたり、外出して三、四〇分も戻って来ないことがあった。
2 もとより、被告の主張するとおり、教育においては、教育を施す教師側とこれを受ける生徒側双方の協力や努力が必要であり、生徒が教師の指導に不満を持ったり、又は、教育の成果が上がらない等の事情があったとしても、そのことから直ちに教師側の指導に問題があると断定することはできない。
しかしながら、原告生徒らは、原告Nを除き、○○への通塾を中止した後、他の進学塾に通い、原告Aは東海大学附属第一高等学校へ、原告D及び原告Gは富士宮西高等学校へ、原告Kは富士東高等学校へ、原告Rは吉原商業高等学校へそれぞれ進学し、また、原告Nは進学塾へは通わなかったが、富士見高等学校へ進学したものであって、原告生徒らの学習意欲や能力に格別の問題があったとはいえないのであり、原告生徒らが○○の指導に不満を持ち、又、教育の成果も芳しくなかったこと(前記各証拠)が、専ら原告生徒ら教育を受ける側に起因する問題であるということができないことは明らかである。
また、原告G以外の原告生徒らは、相当回数通った後に通塾を中止しているが、①中学生に過ぎない原告生徒らや教育の専門家でもない原告親らにおいて○○における指導方法の適否について早期に判断を下すことは困難であること、②前記のとおり極めて高額の受講料を入塾時に前払いしているため、短期間で○○の指導に見切りをつけて通塾を中止するにはよほどの決断と確信が必要とされること、及び③被告は、授業中に○○の指導方法に対して抗議をしてきた父兄の悪口を生徒に言うことがあり(甲二五号証)、このことが原告生徒らをして被告の指導方法に対する不満を原告親らに報告する際の妨げとなった面があること等の事情に照らすと、原告生徒らが相当期間○○に通塾したという事実は、○○における原告生徒らに対する指導の実態に関する当裁判所の認定を左右するものではない。
3 原告Nについて付言するに、同原告は、小学校一年生のころに担任の教師から体罰を受けたことから学校の教師を敬遠する傾向があり、同原告を指導するには特に個人的な信頼関係に基づくきめの細かい指導が必要であった。そして、現に被告はそのような指導をする旨原告N及びその母親に説明し、一回目の授業の際には個人指導を実施し、原告Nもその指導に満足し、○○における勉強に意欲を持って臨んでいた。
ところが、通い始めて三か月ほど経過した平成四年八月ころから、被告は原告Nに対する個人指導をしなくなり、原告Nは、同年一〇月ころからは○○に通うことを嫌がり、平成五年に入ると他の生徒(原告R)から誘われない限り通塾しなかった。原告Nは、○○に行っても自習ばかりで被告から指導を受けることはなく、かえって、被告に学校の試験問題について質問した際に「ばかだなあ、こんな問題も分からないのか」と言われただけで何の指導もなされなかったことから、精神的ショックを受けるとともに再び教師に対する不信感を抱くようになり、勉学に対する意欲にも悪影響を及ぼしていたものである。
被告は、仮にも教育者である以上、原告Nがどのような問題点を抱えており、どのような対応をすべきであるのかを十分認識していたはずである。前記のとおり、原告Nに対しては、他の生徒以上に被告個人との信頼関係に基づくきめ細かい指導が必要だったのであり、これを怠り、のみならず、原告Nの質問に対して前記のような対応をした被告の指導態度は、明らかに適切を欠くものである。
4 なお、被告は、自らの指導実績として前記(第二の四)のとおり主張するが、右実績を裏付ける客観的資料は何ら提出されていない上、右指導実績は単に生徒数を羅列したものに過ぎず、各生徒のもともとの学習レベル、各生徒の受けた講習内容等指導の実情を示す資料としては、あまりにも不十分なものである。被告の右指導実績に関する主張は、○○における原告生徒らに対する指導の実態に関する当裁判所の認定を左右するものではない。
三 損害について
1 右に認定した被告の指導内容によれば、被告は原告生徒らに対し、本件契約において被告に期待されるような指導を何らしていないのであり、本件契約に基づく義務を履行していないというほかない。被告は、本件契約の当事者である原告親らに対し、右債務不履行による損害を賠償する義務がある。
そして、一で認定した本件契約の内容によれば、被告が原告生徒らに対してその能力や個性に応じたきめ細かい指導をする義務を怠った以上、原告らは本件契約による利益を何ら享受していないことになるというべきであって(本件契約において被告に求められる指導水準に照らすと、入塾当初に個人的な指導を数回程度したとしても、無意味である。)、第二の二において認定した原告親らが被告に支払った受講料等は、原告生徒らが○○に通った回数や原告生徒らが被告から市販の参考書を交付された事実の有無等にかかわらず、すべて右債務不履行に基づく損害というべきであり、被告は、同金額を、原告親らに対し、債務不履行に基づく損害賠償として支払うべき義務がある。
被告が、原告親らに対して支払うべき金額は以下のとおりである(原告親らは、催告の日の翌日から支払済みまでの民法所定の遅延損害金の支払も求めているところ、右催告の日は当事者間に争いがない。)。
①原告B
金七八万五〇〇〇円(第二の二2(三))及びこれに対する催告の日の翌日である平成五年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金
②原告E
金九五万五〇〇〇円(第二の二3(三))及びこれに対する催告の日の翌日である平成五年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金
③原告W
金六九万円(第二の二4(三))及びこれに対する催告の日の翌日である平成五年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金
④原告L
金八五万円(第二の二5(三))及びこれに対する催告の日の翌日である平成五年六月二八日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金
⑤原告O
金一二四万円(第二の二6(三)及び(四))及びこれに対する催告の日の翌日である平成五年一〇月三〇日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金
⑥原告S
金一一〇万五〇〇〇円(第二の二7(三)及び(四))及びこれに対する催告の日の翌日である平成五年一〇月三〇日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金
2 原告生徒らは、本件契約締結時における被告の言動から被告が生徒個々人の個性や能力に応じたきめの細かい指導をしてくれるものと信じて週一回約三時間を費やして○○に通っていたところ、現実には、前記のような被告の指導態度により、学習効果が上がらないことはもとより高校受験を控えた貴重な時間を空費し、かつ、学習意欲にも悪影響を生じていたものである。
被告が本件契約に反して右のような指導態度に終始したことは、原告生徒らに対する不法行為を構成し、被告は、原告生徒らに対し、右不法行為により被った精神的損害を賠償すべき義務がある。
右賠償金額としては、原告生徒らにつき各二〇万円とするのが相当である。
3 原告生徒らは、原告親らとともに本件訴訟の遂行を原告訴訟代理人弁護士に委任したところ、本件訴訟の内容、経緯(訴訟前に調停手続きも経由している。)及び認容額等諸般の事情を考慮すると、原告生徒ら及び原告親らが原告訴訟代理人弁護士に支払うべき報酬のうち、本件認容額(原告親ら及び原告生徒らに対する各認容額の合計額)の一割に相当する金額は、被告の原告生徒らに対する不法行為と因果関係のある損害である。
右金額は以下のとおりである。
① 原告A 金九万八五〇〇円
② 原告D 金一一万五五〇〇円
③ 原告G 金八万九〇〇〇円
④ 原告K 金一〇万五〇〇〇円
⑤ 原告N 金一四万四〇〇〇円
⑥ 原告R 金一三万〇五〇〇円
4 なお、原告生徒らは、不法行為に基づく損害賠償として2及び3記載の金額の合計額及びこれに対する民法所定の遅延損害金の支払いを求めているところ、請求の趣旨記載の各遅延損害金の起算日が本件不法行為の後の日であることは弁論の全趣旨により明らかである。
四 以上によれば、被告の原告親らに対する不法行為の成否について判断するまでもなく原告の本訴請求は全て理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官山之内紀行)
別紙
一、被告の経歴等
被告は昭和二九年四月、富士中より富士高校に入学し、昭和三三年三月卒業(母の病気のため夜間部へ編入)し、大学を目指したが、家計のために働かざるを得なかった。
しかし、新教育研究グループを結成し、教育について学び、研究かつ、家庭教師などで実践してきた。その成果のうえに、昭和四五年四月、静岡教育システム指導部なる教育事業体を発足させた。
当初は、小中学生約三五〇名を対象に通信教育をおこない、静大附属中学校、聖光学院中等部、県立富士高等へ多数合格させてきた。
そして、多くの父兄生徒から強く要望されて、昭和四九年四月、富士市永田に○○富士スクールを開校した。ここで、小等部、中等部、高等部のクラスを設置し、定員制クラス編成のグループ学習方式により、個別指導を主に生徒各自の能力伸長を目指す指導により、多くの成果を上げた。
昭和五四年には、さらに○○高校進学センターを増設し、平成元年、○○研究所に改名し、平成五年七月三〇日、同研究所を閉鎖したものである。
しかし閉鎖後も、生徒の要望から、家庭訪問による個別指導を約一〇名程度、続けている。
二、被告の教育方針
研修生各自が「自己の可能性」を深く信じ、その具現化への情熱、熱意を持続せしめる精神力をいかに付けるか、その具体的方法論を実際の個別指導の中でカウンセリングし、対話の中において研修生各自に気づかせ習得できるよう教育的配慮を行うことを理念とし、指導方針としてきた。研修生各自がそれぞれ高校及び大学に進学後の学習が、自力で展開できるよう実際の教科指導においては研修生の学力、能力を見極めつつ、基礎事項の徹底解明とその応用及び発展学習にも及び、知的好奇心、学習における動機付けに充分意をはらい、研修生の能力向上を計ってきた。特に、当研究所のマスタリーラーニング方式なる学習システムは、多年多くの教育的成果を上げた。
もとより、研修生の学習活動の“向上”に対する評価に対して短期間に云々することは教育的に適切でないと三〇数年間の指導経験で明言できる。研修生各自のこれまでの学習条件は一様でないからだ。長期に至って評価すべきである。研修生が自己の特に学習能力にめざめ学習方法を体得できる時期は一様ではない。いかに体得させるべきか、そこが指導者の役割である。そこに至る過程には幾多の困難さが存在する。即ち“忍耐”が必要であり、指導者、研修生、父兄の“三身一体”の信頼性を絶対条件とする。それぞれが力を尽くし意を尽くす事が要請されているのである。このような教育的確信理念をもって長年教育指導に当ってきた。
三、実績
これらの教育方針のもとに、講師陣はほぼ五人前後で担当し、土、日曜日を重点として、平日は夜間に研修するという体制でやってきたものである。
閉鎖前五年間を振り返ると、研修生は次のような状況であった。
(イ) 一九八九年度
小四 一人
小五 五人
小六 四人
中一 五人
中二 一二人
中三 二三人
高一 七人
高二 五人
高三 四人
計 六六人
(ロ) 一九九〇年度
小五 五人
小六 五人
中一 五人
中二 七人
中三 二五人
高一 一〇人
高二 五人
高三 五人
計 六七人
(ハ) 一九九一年度
中一 三人
中二 七人
中三 二〇人
高一 四人
高二 三人
高三 三人
計 四〇人
(ニ) 一九九二年度
中一 二人
中二 一三人
中三 一九人
高一 四人
高二 三人
高三 二人
計 四三人
(ホ) 一九九三年度
中一 五人
中二 六人
中三 一七人
高一 四人
高二 二人
高三 二人
計 三六人
九二年から九三年にかけては、中学生は大体三〇人前後であり、本件の六名は、なにが不満なのか、異議を述べているごく少数のものであった。
なお、研修生のうち、高校進学の実績は次のとおりである。
(イ) 一九八九年度
県立富士高合格 普通科 七人
理数科 三人
〃 東高〃 五人
〃 吉高〃 二人
吉原工業高〃 二人
他 〃 四人
計 二三人
(ロ) 一九九〇年度
県立富士高合格 普通科 九人
理数科 二人
〃 東高〃 四人
〃 西高〃 三人
吉原工業高〃 二人
沼津商業 〃 二人
他 〃 三人
計 二五人
(ハ) 一九九一年度
県立富士高合格 普通科 五人
理数科 二人
〃 東高〃 五人
〃 西高〃 二人
吉原工業高〃 二人
他 〃 四人
計 二〇人
(ニ) 一九九二年度
県立富士高合格 普通科 四人
理数科 二人
〃 東高〃 四人
〃 西高〃 一人
吉原工業高〃 三人
吉原商業 〃 三人
他 〃 二人
計 一九人
(ホ) 一九九三年度
県立富士高合格 普通科 三人
〃 東高 〃 三人
〃 西高 〃 一人
吉原工業高 〃 三人
県立沼津工業〃 一人
吉原商業 〃 二人
他 〃 四人
計 一七人
別表
出捐者
契約日
出捐日
出捐金額
出捐名目
返還日
返還金額
差額
B
92.9.8
92.9.8
9.9
12.4
30,000円
700,000円
55,000円
参考書代
受講料(50回分)
冬期講習会費(4回分)
0円
785,000円
E
92.9月頃
92.9.17
9.21
10.6
12.5
93.2.3
370,000円
25,000円
450,000円
55,000円
55,000円
仮契約金
参考書代
契約残金
(講習料+コンサルタント料)
冬期講習会費
春季講習会費
0円
955,000円
W
93.1.19
93.1.20
〃
670,000円
20,000円
受講料(43回分)
参考書代
0円
690,000円
L
92.9.16
92.9.17
9.16
820,000円
30,000円
受講料
参考書代
0円
850,000円
O
92.5.24
92.5.25
〃
〃
6.29
8.9
10.29
900,000円
70,000円
20,000円
150,000円
75,000円
75,000円
受講料
コンサルタント料
テキスト代
夏期講習会費
定期試験対策講習料
〃
93.10.29
50,000円
1,240,000円
S
92.2月ころ
92.3.8
〃
〃
6.30
900,000円
70,000円
35,000円
150,000円
受講料
コンサルタント料
参考書代
夏期講習会費
93.10.29
50,000円
1,015,000円